西山声明の楽理「④ 声明の拍子」

拍子とは
拍子とは、一般的な音楽理論を例にとると「四分の四拍子」や「四分の三拍子」などと表記されて、一つの曲を演奏する際の小節が何拍であるかを示すものです。
声明においては、一つのお経を一曲として特定の演奏方法が定められており、西洋の音楽では「小節が何拍であるか」という様に表される事に対して、お経は「一文字につき何拍か」を指定されて拍子が定められていおります。お経はゆっくりと唱えるもので、リズムを感じたことのない方がほとんどであろうと思いますが、みんなで声を合わせてお経を唱える事ができるという事はお経の節(メロディー)の中に一定のリズムである拍子が存在するという事です。
拍子を感じる事が無いもう一つの理由もう一つあります。それはお経を唱える時にメトロノームの様な一定の速度でリズムを刻むという事をしないからです。リズムに沿って機械的に演奏する(唱えられる)のでは無く、短い部分もあれば長い部分もある。少しためる様な部分や少し流す様な部分もある。それがお経独特のリズム感を作り出し、口伝の中で伝承されている部分でもあります。
これらの独特なリズムは人によって、地域によって異なります。だからこそ大勢が集まった時には拍子が存在する事は理解しつつも、お経の雰囲気を壊さない様に「お経感」を出しつつその上で周りと合わせながら「耳で唱える」という事が大事になってくるのです。
ちなみに節が無く、スピードの速いお経は木魚等を用いて声を合わせます。一般の皆様にとってはこちらの方がリズミカルでお経らしいと感じる方が多いかもしれませんね。

声明における拍子の種類
大きく分けて序曲と定曲に分けられます。序曲とは「拍の無い自由なリズムのお経」の事で、一つの文字に対して長く様々な節(メロディー)を付けて読まれる様なお経の事を指します。
対して、定曲とは「拍子構造を持つお経」ですが、一文字に特定の拍が定められ、その拍数を演奏すると次の文字に移るという構造となります。
一文字を四拍で唱える「四分全拍子」が本来の基本なのですが、一字六拍の「本曲拍子」、三拍の「中音拍子」、二拍の「切音拍子」、なども存在します。
また、西洋の楽譜でいう、「四分音符」や「八分音符」の様な長さの表現も存在し、「延拍子」や「半拍子」と呼ばれます。四分全拍子で演奏されている時の延拍子は六拍、半拍子は二拍となります。
両方ともに「拍子」という文字が使われているのでややこしいですが、「本曲拍子」や「中音拍子」などが「四分の四拍子」や「四分の三拍子」などの曲の構成をあらわしている拍子、「全拍子」、「延拍子」や「半拍子」は「四分音符」や「八分音符」などの音符の長さと同じです。
さきほど、『西洋の音楽では「小節が何拍であるか」に対して、お経は「一文字につき何拍か」を指定されている』と言いましたが、切音拍子でリズムよく読まれていく様なものに関しては、複数の文字をひとまとめにした小節の様なものが追加されて曲が進んでいく場合も存在致します。(西山浄土宗はリズミカルなお経が多く、ほどんどがこのパターンです。)
御詠歌などの楽譜を見ると様々な音符が使用されておりますが、西洋の音符を使用して一文字の節をより詳細に示したものであり、定曲と言って差し支えありません。
これらの特徴から、序曲は一人で朗々と唱えられるお経が多く、定曲は大人数で声を合わせて唱えられるお経が多くなっています。

西山浄土宗における拍子
ここまで拍子について書きましたが、実は西山浄土宗では、拍子が記載された書物は存在せず、近年作成された御詠歌の楽譜などを除き、拍子に関しては口伝によってのみ伝えられています。
これはわが宗派では「拍子」というものを書物に記載する事によって、拍子に捉われてお経の雰囲気が損なわれてしまう事を恐れての事であろうと思われます。
実際に、伏鉦(ふせがね)等を一定のリズムで鳴らしながら唱えるご詠歌は「お経」というよりは「歌」という感じに聞こえるでしょう。
西山浄土宗で多く演奏される節物のお経は「往生礼讃偈」と呼ばれるものですが、これは一字二拍を基本とした「切音拍子」で演奏されています。
加えて、「往生礼讃偈」は晨朝礼讃は五文字一句、日中礼讃は六文字一句、日没礼讃は四文字一句、初夜礼讃は五文字一句と決まった文節で区切られてお経が作られており、一字二拍を基本としながら、句の終わりの最後一字は四拍で演奏されるというパターンでの演奏がなされています。
演奏の中で一拍の「半拍子」が使われる事がありますが、これが使われる場合は半拍子を二つ繋げるか、直前の文字を一字三拍に伸ばす「延拍子」が使われて、基本である一字二拍のリズムをつくる様に構成されています。また、半拍子二つと捉えるよりは二文字を一文字として捉えている様な詠み方も例外として存在しています。これは「南無」や「阿弥」など、数多く詠まれるうちに二拍・二拍の箇所が一拍・一拍に省略されてきたと考えられます。

拍子の分類と長さ
往生礼讃の拍子