西山声明の楽理「⑤ 声明の博士(音符)」

博士とは
博士は旋法・調子が定まった音曲を演奏する為の記号で、五音の旋律を表しています。
博士という言葉は、かつて朝鮮半島や中国から日本に学術技芸を伝えた人を「博士」と言い、七世紀に国の役人養成機関に中国語の発音を学ぶ「音博士」が設けられたことから、声明の唱え方を正しく伝える楽譜を「博士」と呼ぶようになったといわれています。
天台宗では、古博士(こはかせ)・五音博士(ごいんはかせ)・目安博士(めやすはかせ)の三種類に大別されるものが現存しており、歴史的には古博士が一番古いものであると言われています。
五線譜を用いたものも存在し、「回旋譜(かいせんふ)※右図」といい昭和以降におそらく西洋の楽譜を元に造られたものです。
この世の全ての音楽や芸術にも共通するところであろうと思いますが、博士の通りに演奏してもそれは人の心を動かすような演奏ではありません。あくまでも博士とは「メモ書き」であり、博士を目安としてその奥に存在する表現を追い求める事や、自身の信仰を形にする事が声明には重要なのであろうと思います。ですから、博士はあえてわかりにくく抽象的に書かれているのかもしれません。

三種の博士
古博士の記譜法は、原語のアクセントを忠実に発音しようと努力した「声点」に従って、旋律型を視覚的に表現しようと配慮されている事が特色です。
五音博士は、原語のアクセントよりも五音(宮・商・角・微・羽)の音位を明確に楽譜に表すための努力の結果、出現した楽譜で、平安朝末期ごろに出現したと考えられています。しかし、声明は五音七声以外の塩梅音(音程を取るための節)や経過音(音の間をつなぐ節)の存在が重要な位置を占めているものであり、五音の音階を表現するのに合理的ではあってもこれらを表現する事が出来ないという所が課題です。
この問題を解決するために鎌倉初期より使われたのが目安博士で、旋律型がより可視的に図示されています。「参考:天台聲明概説(天納傳中著)」(右図は天台宗の三種博士)

西山浄土宗の博士
西山浄土宗では、五音博士をより簡潔に表したものを使用しています。(一部の特殊な法要では回旋譜を用いたものもあります。)
簡潔に「宮」「商」「角」「微」「羽」が表されており、非常にわかりやすいのが特徴です。
また、博士を補助する記号として、五音の略字が使用されます。宮→ウ(ウ冠)、商→六(立の上の部分)、微→山、羽→ヨ。角は使用頻度が低い為、角とそのまま表されています。
読み方としては、博士の左の部分が出だしの音を表し、右の部分はその音からの移音やその際の表現を示しています。
博士を左から繋げていくと回旋譜の様に書くことができます。
現行の経本と、一つ前の経本を見比べると、昔のものは非常に抽象的で、この博士を見ただけでは正しい演奏は到底できないでしょう。その他の博士を見ても見本を聴かせてもらえない限り本当の演奏は想像がつきません。そこからも声明が口伝を大事にしてきたという事がお分かりいただけるかと思います。
同時に声明を「楽理」という理論で簡単に示して良いものなのか。という事も考えさせられます。はじめにお伝えした様に、理論に捉われず、博士に捉われず、表現を求める上での目安として理論をお使いいただきたいと思います。

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